悟りへの瞑想の道を脳科学から解説

悟りとはどうなることなのかを、瞑想で悟りを得る道筋を脳科学から具体的に解説して行きます

5-5)観察瞑想と自我 5-5-5)エピソード記憶(自伝的記憶)機能

5-5)観察瞑想と自我

5-5-5)エピソード記憶(自伝的記憶)機能
「自伝的記憶」(エピソード記憶)の神経基盤の内で主要な領域として、「海馬」(記憶装置)、「脳梁膨大後部皮質」(後部帯状回:エピソード記憶中継所)、後頭葉の楔部と前楔部領域、左外側前頭前野(情報検索機能)、内側前頭前野・腹内側前頭前野(前頭極:(エピソード記憶検索タグ貯蔵庫)の諸領域があります。自伝的記憶の想起では、記憶手がかりにより記憶検索処理系(左外側前頭前野)は、自己参照拠点(内側前頭前野:検索用タグ貯蔵庫)と相互作用しながら、具体的時空間に定位された特定の出来事の想起となります。
注)より詳細言えば、エピソード記憶の記銘の際は左脳側前頭前野が関与し、想起に際しては左右両側の前頭前野が関与します。なお意味記憶は側頭葉(意味記憶貯蔵庫)が中心だが、意識的な想起には左腹外側前頭前野が関わります。つまり記憶の想起については、前頭極、背外側前頭前野(中前頭回)、腹外側前頭前野が関わります。
無意識下に存在する多数のモジュール(局所神経ネットワーク)が、自律分散的に大量の情報を処理しており、その中で意識に昇って来るのはその一部でしかない。つまり、大量の処理結果のうち注意(能動性意識)を向けた部分のみが選ばれて意識にまで昇って来ます。その主たる「意識の座」は、左手を支配する右脳ではなく「左脳」(右手側)の方にあります。
意識は、何かに注意を向けることができます。意識(前頭前野)に昇らせることでエピソード記憶として記憶します。無意識の神経ネットワークたちの多様な処理を一つにまとめて個人的な体験(人格・アイデンティティ・自我)に変換集約するために必要なものが意識(個人性の窓口)です。無意識下の大量に流れ込んだ情報はやがて消滅します。といっても、全てが消滅するわけではないが。つまり「いつでも利用可能なアクセス可能な情報として記憶」するには、どうしても「意識」(前頭前野、特に背外側前頭前野)が必要なのです。
ということになれば、自我を持つのは、一人人間だけではない。哺乳類はほとんどがエピソード記憶を持ちます。エピソード記憶における符号化の中枢を担うのは、記憶の中枢、パペッツ(記憶)回路です。パペッツ回路は、海馬→脳弓→乳頭体→視床前核→帯状回→海馬、という回帰的構造から成り立ちます。この回路は無意識層で働きます。それに対してエピソード記憶における検索の中枢を担うのは、前頭前野です。特に背外側前頭前野エピソード記憶検索処理の中枢です。この意識的(トップダウン型)な記憶検索をできるのは言語を持つ人間だけです。帯状回後部領域(脳梁膨大後部皮質)は、エピソード情報(具体的経験情報)の想起に関係します。人固有のエピソード記憶体系は、前頭前野が関わるので系統発生的にも個体発生的にも最後に出現します。